科学のつまみ食い 雑記帳
先日、この雑記帳で父が最初に受けた弓部大動脈瘤破裂に関して雑記帳の最初の手術として紹介いたしました。この手術が成功した後、未だ瘤が複数箇所あるので手術をしなければならないが、複数箇所の手術は大手術になり、最初に緊急手術を行った病院ではスタッフが少ないために対応が難しいとのことで、大学病院と相談し、そちらに転院して手術を行うこととしました。
前回は、破裂した弓部大動脈を人工血管に交換する手術でした。今回は心臓の裏から横隔膜までの胸腹部大動脈を通り、お腹の裏の腹部大動脈から、両足に分岐する超骨大動脈までの間が手術部位に当たります。大動脈の詳細は最初の手術を参考にしてください。
さて、今回、行った父の手術名は胸腹部大動脈人工血管置換術といい、図の緑色のところである胸部大動脈、腹部大動脈、超骨大動脈を人工血管に交換しました。
前回は、全身麻酔、心停止、超低体温、人工心肺を使用した脳保護法でしたが、今回は心停止は行わすに、全身麻酔、低体温、人工心肺による手術ですが、胸部から腹部まですべての範囲に動脈瘤ができているので、大動脈手術の中でも最も困難な手術の一つと言われていたそうですが、最近は手術の成功率が高くなっているそうです。この手術で問題となるのが手術中の脊髄保護です。
この、脊髄保護が不十分な場合、術後に対麻痺という下半身の神経障害を起こします(いわゆる下半身付随)。侵襲の少ない手術方法と、脳脊髄液ドレナージ(背中から脊髄に細いチューブを挿入し、脊髄の血流を改善させる方法)や、脊髄保護剤などの複数の脊髄保護法を組み合わる事で、現在、脊髄神経障害の発生を低く抑えています。この手術では多くの場合輸血が必要です。手術時間は5〜6時間で、入院期間は2〜3週間です
手術の方法は
☆手術前
●CT等による脊髄血流の分岐点の探索
上に述べたように胸腹部大動脈瘤の手術においては脊髄保護が最も重要です。しかし、胸部大動脈から脊髄へ血液が分岐する場所は人により異なり、第8胸椎から第1腰椎レベルの肋間動脈から分枝していることが多く、その血流をできるだけ維持しながら、虚血時間を最短にするように手術を行います。そのため、予めその場所を特定しておくことが重要です。そのために、手術前にCTその他の方法で脊髄血流の分岐点を探索しておきます。通常7〜8割の方は予め見つかるのですが、父の場合には残念ながら見つかりませんでした。そのため、手術中にそれらしい血管を患者(父)の反応を機会で見ながら探索し特定しました。
●脳脊髄液ドレナージチューブの挿入
手術前日の措置として、手術中に髄液増加などにより髄腔内圧が高くなった場合に髄液を抜くことによる内圧の低下による血流障害防止や脊髄保護作用のある薬の点滴等を施行し脊髄の保護を行うためのチューブを挿入します。
☆手術
●全身麻酔
●人工心肺により下半身ににのみ新鮮な血液を送る。(部分対外循環)
今回は心臓は動かしたままですので、脳や上半身には自分の心臓によって血液を流すことができます。しかし、胸腹部大動脈を通って血液が流れる下半身は血流が止まります。そのため、人工心肺により血流を確保します。
●人工血管置換手術
肝臓、腸、腎臓等の腹部臓器への血流を保持しながら、更に脊髄の保護を行って手術を施行せねばなりません。従って、人工血管への置換は迅速に行わなければなりません。父の場合は図の上から順番に3分割して交換したようです、
以上のようにして父は2回目の手術を終了しました。
切開場所は右の写真のように左側の背中の端から腹部までを切り開きました。この写真は実際の父の手術痕で、切開長さは50cmくらいです。写真の胸の中央部にある切開痕は前回の手術痕です。今回の胸腹部大動脈瘤の手術の場合のリスクは20〜30%とといわれました。これは死亡リスクではなく、何らかの後遺症が残るリスクです。前回は緊急手術でしたので死亡のリスクが高かったですが、今回は通常の待機手術ですので、主なリスクは後遺症ということでした。
今回の手術によるリスクを下に書いておきます。但し、前回の手術と同じものは省いておきます。
●下半身不随
●腸機能障害
●肝機能障害
●腎機能障害
これらは、胸部大動脈から直接分岐して血液が送られている器官です。これらには手術中一時的とはいえ血液が流れなくなりますので、これらの臓器に後遺症が残る場合が多いようです。
2005年10月現在、父に大きな後遺症は出ていないので安心しています。
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