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顕微鏡観察の方法

 

by I-satto@08/02/19

位相差顕微鏡

 

【透明な試料】

 顕微鏡で観察する場合は通常、試料を薄くきります。あるいは、もともと薄いものを使用します。そのため無色透明な試料を観察する場合が多いです。 そのような時は、右の写真(口腔粘膜上皮細胞を観察)のように通常は染色液を使用して染色します。このようなプレパラートの作成方法は別途「プレパラートを作って観察しよう」でいくつか説明していますので、そちらを参考にしてください。
 ところで、生物試料を生きたまま観察したい場合には、染色することによって試料を殺してしまう場合があります。そのような場合は染色できません。染色することなしに、口腔粘膜細胞を観察すると右下のようにまったくコントラストの無い像となります。これだと、細胞核らしきものと細胞壁らしきものを一応確認できますが、観察には耐えません。
 このような、無色透明に近い試料を観察する方法として位相差観察法があります。位相差観察法で、右の試料を観察すると下の写真のようになります。同じ試料がコントラストが高く、非常に良く観察できることがわかります。

【位相差顕微鏡】

 位相差顕微鏡は通常の光学顕微鏡に右の写真のような、位相差コンデンサと位相差対物レンズを装着して使用します。私が所持しているものは下の写真にあるものが全てで、PLL10、PLL20、NH20、FlPLL40、PLL100の5本の位相差対物レンズと位相差コンデンサ、芯出し接眼レンズです.

 このうち、位相差対物レンズは右の写真のように対物レンズのボディに白い輪があるネガティブコントラストNHタイプと赤い輪があるポジティブコントラストPLLタイプがあります.

 あとで、位相作法の原理のところで説明しますが、中を覗くと下の写真のように中央にリング状の影が見えます.その影の濃いほうがNHタイプ、薄いほうがPLLタイプです.

 

 また、位相差コンデンサはコンデンサレンズの裏には右の写真のように通常の虹彩絞りとx10、x20、x40、x100のリングスリットを持った絞りがターレット状になって交換できるようになっています

 

 このリング状のスリット絞りはつまみでその中央位置を調節できるような仕組みになっています..位相差対物レンズのリング状の影の部分とこのリング状のスリットを芯出し接眼レンズで調節し、合わせます.

【位相差法】
 さて、位相作法はどのようにして無色透明の試料を観察するのでしょうか?

 無色透明の試料とは、左の上図のように光の振幅を円の半径(矢印の長さ)とし、光の位相を矢印の角度(向き)とした場合に、試料から出る試料の結像光(黒矢印)と背景からでる背景の直接光(青矢印)の振幅がほぼ同じであるということです。しかし、試料自体周囲の物質(背景)はその材質の違いから、光の屈折率がわずかに異なります。そのため、 光には僅かな光行路差ができ、試料の結合光背景の直接光は位相差(矢印の角度の違い)を生じます。しかし、人間の目には矢印の大きさ(光の強さ=振幅)は検出できても矢印の角度(位相差)は検出できません。実は、試料の結合光というのは左の上図のように試料の直接光試料の回折光(赤矢印)の干渉によって生まれる干渉光です。試料の直接光背景の直接光と位相が同じですが、試料の回折光は位相が異なります。 そこで、位相差を振幅の変化に変えるために何らかの方法で試料の回折光のみ左の下図のように位相を1/4波長だけずらしてやります。すると、左の下図 のように試料の結象光の振幅は試料や背景の直接光の振幅と異なる大きさになります。これは試料の回折光試料の直接光の干渉のためです。このようにして、位相差を光の強さに変換して観察する方法を位相作法といいます。通常は試料と背景の直接光試料の回折光に比べて非常に強い(振幅が大きい)ため効果的な干渉がおきにくいので、試料の回折光の位相を遅らせると同時に試料と背景の直接光の振幅を小さくしてやる必要があります。

 

【位相差顕微鏡の仕組み】

 では、位相差顕微鏡はどのような仕組みになっているのでしょう?

試料と背景の直接光
 ケーラー照明の光源レンズを出た光は平行光線になって試料面を通過します。従って、試料面を通過した試料の直接光背景の直接光は平行光線であるため、共に対物レンズの後焦点面を通過します。そこで、コンデンサ絞りとしてリングスリット絞りを入れるとこの試料と背景の直接光は共に対物レンズの後焦点面にリングスリットの像を作ります。ちょうどこの像の位置に吸収膜を張ります。これは上の写真の位相差対物レンズのリング状の影の部分にあたり、試料と背景の直接光を減光します。

試料の回折光
 一方、照らされた試料から出る回折光(散乱光)試料の直接光とは別の経路をとおり対物レンズを通過し ます。そのため、対物レンズの後焦点面のリング状の影の部分である吸収膜の無いリング状の影でない部分を通過します。

試料の結象光(二つの光の干渉)
 これら、試料の直接光試料の回折光は干渉し試料の結像光となります。

背景の直接光
 一方、試料の無い背景の部分は光源の光は試料により回折(散乱)されませんので回折光は現れません。そのため背景の直接光のみが結 像され ます。

【位相差顕微鏡の使い方】
 では、実際に位相差顕微鏡を使うときはどのようにするのでしょう?
@ケーラー照明で試料を照らします。
A目的の試料を明視野で観察します。この時、試料が透明で見づらい場合には、コンデンサ絞りを絞ってやります。そうすると解像度は落ちますが、コントラストが付き、試料の輪郭がはっきり判るようになります。
B位相差対物レンズで明視野観察をします。位相差対物レンズはリングスリット絞りを入れなければ、明視野対物レンズとして使用できます。
C接眼レンズを抜き取り、芯出し接眼レンズを挿入します。
D芯出し接眼レンズを覗くと右の写真のように見えます。通常はこのように、フォーカスがあっていません。

G芯出し接眼レンズを覗くと右の写真のように見えます。リングスリットの明るい部分と位相差対物レンズの薄暗い吸収膜の部分がずれているのが判ると思います。
H芯出し接眼レンズを覗きながらリングスリット絞りの調整つまみを緩め、リングスリット絞りが対物レンズの吸収膜に重なるように調整していきます。右の写真で判るように吸収膜のほうがリングスリットよりも幅広なので、リングスリットが全て吸収膜で覆われるように調整すればよいです。

E芯出し接眼レンズは、レンズの上部分が回転して、対物レンズのこう焦点面にフォーカスを合わせられるようになっていますので、そこを回転させて、左の写真のように対物レンズの後焦点面にフォーカスをあわせます。対物レンズの後焦点面が汚れていますね。後で掃除をしておきましょう。
F次に、使用している対物レンズの倍率に等しいリングスリット絞りをターレットコンデンサの絞りを回転させて選択します。

I正しく調整できると左の写真のようになります。
Jあとは、芯出し接眼レンズを通常の観察用の接眼レンズの交換すれば、位相差観察ができます。

下の写真はこのようにして観察した口腔上皮細胞です。

【ポジティブコントラストとネガティブコントラスト】
 先にも書いたように位相差対物レンズには屈折率の高いほうを暗くするポジティブコントラストPLLタイプと屈折率の低いほうを暗くするネガティブコントラストNHタイプと があります。それぞれ、コントラストが逆になります。右にPLLタイプとNHタイプで同じ口腔粘膜上皮細胞を撮影した顕微鏡写真を示します。対象によって使い分ける必要がありますが、一般的に、細かい粒子のようなもの、例えば右の写真のように細胞内の細かい粒子を観察する場合にはネガティブコントラストが、広い面積のあるもの、例えば、右の写真のように細胞の原形質自体を観察する場合はポジティブコントラストが適しているといわれています。

PLL(ポジティブコントラスト)

NH(ネガティブコントラスト)

 

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