【科学のつまみ食い】

星野写真を撮ろう

by I-satto@02/10/03


 日食の写真や彗星、流星の写真に引き続き、今回は星野写真です。天体望遠鏡を持っていなくてもカメラさえあればできる天体写真撮影の中で最も簡単です。赤道義を使って追尾しながら星を点像に移す方法がきれいですが、ここでは最も簡単な、固定撮影を行ってみました。撮影対象はオリオン座です。


【星野写真って?】
 いわゆる、星や星雲星団などを広い範囲にわたって撮影したものです。新星探しには赤道義を使用した追尾撮影で星野写真を毎日撮影して、そのフィルムを比較して新しい星を探したりします。最近はデジタル自動化されていますが、まだまだ、手作業で新星発見をやられている方はいるようです。

【オリオン座って】
 オリオン座は冬の星座として有名で、2月の上旬の宵に南中(南の空で最も高くなる時)する星座で赤い色で明るさが0.4等から1.3等まで不規則に変化する変光星α星ペテルギウスと薄い黄色で光る明るさが1等のβ星リゲル、そして、その中間に三ツ星を従え、またその三ツ星の下には有名なガス状散光星雲であるM42オリオン座大星雲を持ちます。これは、全天で最も明るい星雲で、その距離は1500光年(光の速度で1500年掛かる距離)彼方にあります。

 星座には、ギリシャ神話がつきものでオリオン座の場合は、ポセイドンを父として持つ体の大きな美男子の狩人のオリオン女神アルテミスを襲ったが、女神の放ったさそりに刺されて死んで星となったのですが、その後も、同じく星になったさそりに追われているという話です。ですから、さそり座が東の空に現れると、西の地平線の下にオリオン座が逃げていくのです(^^;;


【星野写真を撮ろう
さて、では星野写真を撮ってみましょう。

【準備するもの】
  準備するものは、流星の写真を撮ろうで使用したものとほぼ同じで、日食の写真を撮影しよう彗星の写真を撮影しようと異なり、望遠レンズは使用しません。
  (画像をクリックすると拡大されます)

カメラ PENTAX SP2 一眼レフカメラに望遠レンズを付ける必要があります。B(バルブ)やTで長時間露光できるものが望ましいです。最低数秒から数十秒の露光時間が必要です。ここでは旭光学社製の一眼レフカメラを使用しました。
使用したカメラ:旭光学 PENTAX SP
レンズ SMC 28mm

望遠レンズは必要ありません。どちらかと言えば、明るい広角レンズが良いでしょう。彗星や、日食、他の星々と違って広い範囲を撮影するのが目的ですから、流星の撮影と同じように、できる限り広い範囲をカバーでき、しかも明るい広角レンズが必要です。以下の二つのレンズを使用しました。
使用したレンズ:旭光学 SMC28mm

使用したレンズ:旭光学 SMC55mm

三脚 三脚 レリーズ 三脚は必須です。ここでは簡単なミニ三脚を使いました。長時間露光には三脚は必要不可欠なのでぜひ用意しましょう。
レリーズ 三脚と同じで必ず必要です、手でシャッターを数十秒も押しっぱなしと言うわけにはいきません。
フィルム フィルム

そして大切なのがフィルムです。高感度フィルムを用意しましょう。今回はISO400とISO800の2種類の富士のカラーフィルムを使用しました。
使用したフィルム:Fuji SuperG ACE 800

使用したフィルム:Fuji Super 400


【星野写真の撮影】
カメラ さて、撮影です。右の写真は日中に撮影したものですが、写真のようにカメラを三脚に立て方向を定めて固定します。方向は目的の星座がきちんとフレームの中に入るようにしましょう。あとは、適当なときにシャッターを切りましょう。露光時間等は、撮影の目的によって異なります。例えば、星を点で撮影したとか、星の日周運動(星が動いている様子)を撮影する場合など、その用途によって露光時間が変わります。また、レンズの口径によって、移すことのできる星の明るさ(限界等級)が変わりますので、下の3つの表を参考にしてください。

  まず、レンズのF値(開口数とか明るさとか言います)と焦点距離fからレンズの口径を求めます。例えば、私の28mm(F3.5)の広角レンズの場合は下の表から口径は8mmになります。また、55mm(F1.8)の標準レンズの場合には口径は30mmになります。

レンズ開口数(F値)とレンズの口径や焦点距離の関係
焦点距離
20 28 35 50 85 105 135 200 270
口径 3.3 4.7 5.8 8.3 14.2 17.5 22.5 33.3 45.0
8 2.5 3.5 4.4 6.3 10.6 13.1 16.9 25.0 33.8
10 2.0 2.8 3.5 5.0 8.5 10.5 13.5 20.0 27.0
15 1.3 1.9 2.3 3.3 5.7 7.0 9.0 13.3 18.0
20 1.0 1.4 1.8 2.5 4.3 5.3 6.8 10.0 13.5
25 0.8 1.1 1.4 2.0 3.4 4.2 5.4 8.0 10.8
30 0.7 0.9 1.2 1.7 2.8 3.5 4.5 6.7 9.0
35 0.6 0.8 1.0 1.4 2.4 3.0 3.9 5.7 7.7
40 0.5 0.7 0.9 1.3 2.1 2.6 3.4 5.0 6.8
50 0.4 0.6 0.7 1.0 1.7 2.1 2.7 4.0 5.4
90 0.2 0.3 0.4 0.6 0.9 1.2 1.5 2.2 3.0
100 0.2 0.3 0.4 0.5 0.9 1.1 1.4 2.0 2.7

 次に、このレンズでISO100のフィルムを使用して写すことのできる星の等級(明るさ)を下の表から求めます。28mm(口径8mm)のレンズの場合の限界等級は6.5等級です。55mm(口径30mm)のレンズの場合には8.3等級です。更に、表の下の注書きより、使用するフィルムの感度に合わせます。今回28mmのレンズにはISO800のフィルムを使用したので、8倍ですから3.2等級伸びて9.7等星まで移ります。また、55mmのレンズにはISO400を使用しましたので、4倍ですから1.6等伸びて、9.9等級となり、ほぼ同じ限界等級になります。

ISO100のフィルムで 赤道 付近 ( 0度 )の 固定 撮影 移した時 限界 等級(等)
レンズの焦点距離(mm)
20 28 35 50 85 105 135 200 270

(mm)

6 6.0 5.6 5.4 5.0 4.5 4.3 4.1 3.7 3.4
8 6.5 6.2 6.0 5.6 5.1 4.9 4.6 4.2 3.9
10 7.0 6.6 6.4 6.1 5.5 5.3 5.1 4.7 4.4
15 7.8 7.5 7.2 6.9 6.3 6.1 5.9 5.5 5.2
20 8.4 8.0 7.8 7.5 6.9 6.7 6.5 6.1 5.8
25 8.8 8.5 8.3 7.9 7.4 7.2 6.9 6.5 6.2
30 9.2 8.8 8.6 8.3 7.7 7.5 7.3 6.9 6.6
35 9.5 9.2 8.9 8.6 8.0 7.8 7.6 7.2 6.9
40 9.8 9.4 9.2 8.8 8.3 8.1 7.8 7.5 7.2
50 10.2 9.9 9.6 9.3 8.8 8.5 8.3 7.9 7.6
90 11.4 11.0 10.8 10.5 9.9 9.7 9.5 9.1 8.8
100 11.6 11.3 11.0 10.7 10.1 9.9 9.7 9.3 9.0

*フイルムの感度が倍になると等級は0.8等伸びます。

 ところで、星は天の赤道の位置が最も速く動き、北極星のあたりが最も遅く動きます。従って、撮影するための限界等級はそのセ貴意によって異なります。オリオン座はほぼ天の赤道の位置にありますので最も速く動くところですから、限界等級は上で述べたとおりです。もし、天の赤道から離れたところを撮る場合にはもっと暗い星が写りますので下の表を参考にして計算してみてください。

による 等級
(°) 0 20 50 70 80 85 90
等級 び( ) 0 0.1 0.4 1 1.6 2.2 無限


 では、これら28mmのレンズと55mmのレンズでオリオン座を点として写すためにはどのくらいの露出時間が必要でしょうか??それを下の表を参考に求めて見ますと、28mmのレンズでは24秒以下の露光時間、55mmのレンズでは13秒以下の露光時間におさえなければなりません。それよりも長くなると写ったオリオン座は流れてしまいます。

像に写すための露出時間 (秒)   0.05mmの大きさ
レンズの焦点距離(m)
20 28 35 50 85 105 135 200 270

(°)

0 34.000 24.286 19.429 13.600 8.000 6.476 5.037 3.400 2.519
10 34.524 24.660 19.728 13.810 8.123 6.576 5.115 3.452 2.557
20 36.180 25.843 20.674 14.472 8.513 6.891 5.360 3.618 2.680
30 39.254 28.038 22.431 15.702 9.236 7.477 5.815 3.925 2.908
40 44.371 31.693 25.355 17.748 10.440 8.452 6.573 4.437 3.287
50 52.867 37.762 30.210 21.147 12.439 10.070 7.832 5.287 3.916
60 67.938 48.527 38.821 27.175 15.985 12.940 10.065 6.794 5.032
70 99.241 70.886 56.709 39.696 23.351 18.903 14.702 9.924 7.351
80 195.022 139.299 111.438 78.006 45.886 37.146 28.891 19.502 14.446


【撮影したオリオン座の写真】
 撮影したオリオン座の写真をここに掲載します。

 
  さて、左の写真は1999年9月10日午前4時5分から4時20分にかけて撮影したもので、f=55mm(F=1.8)の標準レンズFuji Super 400 (ISO400)を使用しました。このオリオン座の星野写真ではオリオン座の星座の形がわかるように最初13秒間露光して星の点像を撮影し、次に5分間レンズの前に黒い袋をかぶせることにより、星像が写らないようにし、その後黒い袋を取り払い最後の10分間で日週運動で流れる像を撮りました。簡単に言えば、B(バルブ)でシャッターを開け、13秒経ったらレンズに黒い袋をかけ5分後に袋をはずして、10分後にBをとじたということです。従って、全ての星の像が、点の後に日週運動の線が見えています。また、星の色がそれぞれ異なり、白かったり赤かったり黄色かったりするのがわかりますね。ちなみに、左の写真をクリックすると星座と星を解説した写真に変わります。左上の赤い星がペテルギウス右下の白っぽいですが実は薄黄色の星がリゲル、真中に三つ並んでるのがオリオン座の三ツ星、この三ツ星の真下にやはり三つの星が並んでいて、その中央がオリオン座大星雲です。この星雲は望遠鏡でないと良く見えませんね。ところで、なぜ13秒かというと上の星を点像に移すための露出時間からこの場合には、13秒が星が点に見える露光時間であることがわかります。これ以上長い時間露光すると、点ではなくなってしまうからです。また、この写真の限界等級は9.9等星のはずですが、そこまで暗い星がうっつっているでしょうか?
オリオン座
 こちらの写真は1999年11月5日午前3時8分から3時28分にかけての20分間f=28mm(F=3.5)の広角レンズ用い、Fuji SuperG ACE 800( ISO800)で撮影したオリオン座の星野写真です。先ほどのf=55mmで撮った写真よりも明るく、色も鮮やかですし、暗い星まで良く映っているようです。f=55mmの写真では日週運動で流れる星はほぼ直線になっていますが、こちらは広角レンズで撮っているので、湾曲しているのが見えます。オリオン座の三ツ星の付近がちょうど点の赤道にあたるので、ここを境に写真の上のほう(天頂方向)は下に戸津になっているのが判ります。逆に、写真の下の方は上に凸になっていることが判ると思います。ところで、上のf=55mmで撮影した写真はオリオン座を撮影する目的で撮ったものですが、このf=28mmの写真は実は目的はオリオン座ではなかったのです。実は10月15日〜11月30日はおうし座流星群が現れる次期で、1999年は11月3日頃に極大を迎える予定でした賀、この日はおきることができなくて、結局2日後の11月5日にオリオン座を背景におうし座流星群が取れるといいなと思い撮影したのですが、残念ながら流星は写っていませんでした(^^;;流星の写真は流星の写真を撮ろうで述べたように2等星以上の明るい流星でないと撮れません。背景のこのオリオン座の写真の出来が比較的いいだけに非常に残念です。ところで、この写真の中央の上端に移っている赤っぽい星はおうし座α星の1等星のアルテバランで、ヒヤデス星団を構成しています。



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