物理・化学

工学を含めて物理的な話や化学的な話について書き留めています

  • 温湿度データロガーを使ってみたら、エアコンの制御まで見えてきた

    今年の夏も、昨年に負けないくらい暑い日が続いています。

    暑い日には「今日は暑いなぁ」、寒い日には「なんだか冷えるなぁ」と感じますが、そのとき実際の室温や湿度がどれくらいなのかを意識することは意外と少ないものです。

    皆さんは普段、部屋の温度や湿度をどのように管理しているでしょうか?

    時計に付いている温度計をちらっと見る程度という方もいれば、エアコン任せという方もいるかもしれません。

    実際、「暑い」「寒い」という感覚には個人差があります。

    職場でも、

    「今日は暑いね」

    と言う人がいる一方で、

    「えっ、27℃もあるの?もっと低いと思った」

    という人もいます。

    同じ空間にいても、人によって感じ方は大きく異なるのです。

    環境省では、省エネルギーを意識しながら快適性を保つ目安として、

    夏季:室温28℃
    冬季:室温20℃

    を推奨しています。

    しかし本当に部屋の温度はそのように推移しているのでしょうか。

    以前から、

    室内の温度変化
    車内温度の変化
    エアコンによる温湿度制御

    に興味があった私は、実際に測定してみることにしました。


    2千円で買える温湿度データロガー

    そこで購入したのが温湿度データロガーです。

    昔はデータロガーといえば研究用途や産業用途が中心で、数万円から数十万円する機器でした。

    ところが現在では、2千円で購入できる製品も珍しくありません。

    Amazonで探した結果、今回購入したのは JJWS23というモデルです。

    液晶表示はありませんが、

    ・温度・湿度を同時測定
    ・最短1分間隔で記録
    ・BlueToothによるデータ回収
    ・CSV出力対応
    ・低価格

    という条件を満たしていました。

    特にBluetooth対応なのが魅力です。

    測定場所へ行って本体を回収しなくても、その場でスマートフォンからデータを取得できます。


    まずは3日間、どこへ行くにもJJWS23を持ち歩いてみた

    せっかく購入したので、まずは徹底的に使ってみることにしました。

    購入後の3日間、 JJWS23を常に携帯し、自分が滞在する環境の温度と湿度を記録してみました。

    言ってみれば、自分自身が実験台です。

    この期間は平日だったので

    ・06:00~18:00頃:職場
    ・18:00~06:00頃:自宅

    という生活パターンになります。

    その結果をグラフ化してみると、温度と湿度が時間帯によって実に面白い変化を見せてくれました。

    8/3から8/7の筆者I-sattoの滞在した環境の温湿度のトレンド

    赤が湿度(humidity)、黒が気温(Temperature)です。

    また、グラフはグレーでハッチングしてあるところが職場での測定値になります。ちなみに、この三日間は比較的涼しく、以下のような気温でした。

    平均気温(℃)最高気温(℃)最低気温(℃)平均湿度(%)
    8月4日23.827.820.076
    8月5日24.428.919.375
    8月6日26.230.822.389

    データからエアコンの制御が見えてくる

    最も興味深かったのは職場での測定結果です。

    朝、出勤してエアコンを入れると室温が下がり始めます。

    しかし、設定温度付近に達すると冷房能力が弱まり、再び温度が上昇します。

    すると今度は冷房が強くなり、また温度が下がる。

    この繰り返しがグラフ上にはっきり現れていました。

    以下のグラフは8月5日の6時から18時の職場にいる時間帯を拡大表示したものです。

    2026年8月5日の筆者I-sattoの滞在した職場の温湿度の時間変化

    波打つような温度変化を確認すると、

    エアコンが約20分周期で室温を制御している

    ことが見えてきます。

    普段は意識することのない空調制御の動きが、温湿度データとして可視化された瞬間でした。

    さらに室温はおおむね27℃前後で維持されていることも確認できます。


    西日がエアコンに勝つ瞬間

    さらに興味深いのが午後の変化です。

    昼過ぎまでは安定していた室温が、14時半頃から急激に上昇します。

    職場は西日の影響を受けやすい部屋です。

    そのため午後になると窓から侵入する熱量が増加し、エアコン能力だけでは室温上昇を抑えきれなくなります。

    結果として、

    26℃
    27℃
    28℃
    一時的に29℃

    まで上昇する様子がグラフに記録されていました。

    まさに、

    「西日との戦い」

    がデータから読み取れたわけです。


    誰もいない職場は夜どうなるのか?

    さらに実験を続けました。

    8月5日はJJWS23を持ち帰らず、職場に置いたまま帰宅してみました。

    つまり、8月5日18時から翌日8月6日の6時までは

    無人・空調なしのオフィス

    の温湿度変化を測定したのです。

    結果は予想以上に興味深いものでした。

    夕方に29℃近くあった室温は、夜を通してゆっくりと低下していきます。

    一方、湿度は徐々に上昇します。

    そして日の出前後まで温度は下がり続け、朝になると再び上昇へ転じます。

    人がいない空間でも、建物全体が外気や日射の影響を受けながら呼吸するように温度を変化させていることがよく分かりました。


    実は意外と高機能だった専用アプリ

    このJJWS23にはスマートフォン用アプリが用意されています。

    単なる温湿度表示だけでなく、

    ・カビのリスク

    ・測定ログの最高温度/最低温度とその日時

    ・現在温度、現在湿度

    ・VPD(飽差)

     VPD(Vapor Pressure Deficit)は、空気がどれだけ水蒸気を保持できるかを示す指標で、植物の蒸散や水分管理に大きな影響を与え、「飽差」と呼ばれます。
    この値(VPDVPD)は飽和蒸気圧(VPesVPes)と相対湿度(RH)から、以下のテテンス(Tetens)の式で計算が可能です。

    VPD=VPes(T)(1−RH/100)VPD=VPes(T) (1-RH/100)
    VPes(T)=0.61078exp(17.27T)/(T+237.3))VPes(T)= 0.61078 exp( 17.27 T )/ (T + 237.3) )

    ここで、飽和蒸気圧(VPesVPes)は温度(TT)から求めることができるので、実質的にはVPDVPD(飽差)は温度(TT)と相対湿度(RHRH)が判れば計算できるので、ここで示されている値は計算値になるはずです。
     で、実際に計算すると
    28.5℃、52.4%時のVPDは1.85kPaとなり表示値と一致します。
    29.5℃、72.3%時には1.14kPaとなり、こちらも表示値と一致します。

    ・露点

    露点は結露する温度で、室内やビニールハウスなど閉じた環境で、そのまま温度を下げると、この露点まで下がったときに結露してしまいます。この露点(Td)も温度(T)と相対湿度(RH)から以下の式で計算が可能です。

    Td=237.3×γ/(17.27−γ)Td = 237.3 × γ / (17.27 − γ)
    γ(RH,T)=ln(RH/100)+17.27T/(T+237.3)γ(RH,T) = ln(RH/100) + 17.27 T / (T + 237.3)

    で、実際に計算すると
    28.5℃、52.4%時の露点は17.80℃となり表示値とほぼ一致します。
    29.5℃、72.3%時には23.98℃となり、こちらは表示値と一致します。

    ・暑さ指数

    なども表示できます。

    農業用途を意識しているためか、植物栽培で重要となるVPDまで表示されるのは少し驚きでした。


    「暑さ指数」の正体を調べてみた

    ところが、アプリの表示を見ていて気になる点を発見しました。

    表示される「暑さ指数」が、どう計算してもWBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperatureと一致しないのです。

    そこで計算式を調べてみましたが、どうしても値が合いません。

    通常、黒球温度が判らないと推定が難しいのですが、室内用として簡易推定式(気温(T)と湿度(RH)のみで近似)が決められています。

    簡易推定式(気温と湿度のみで近似)

    WBGT=0.7×Tw+0.3×TWBGT = 0.7 ×Tw+ 0.3 ×T
    Tw(RH,T)=Tatan(0.151977(RH+8.313659)0.5)+atan(T+RH)Tw(RH,T)= T atan(0.151977 (RH+8.313659)^{0.5})+atan(T+RH)  
     −atan(RH−1.676331)+0.00391838・RH1.5atan(0.023101・RH) -atan(RH-1.676331)+0.00391838・RH^{1.5} atan(0.023101・RH)   −4.686035   – 4.686035 

    なお、上の湿球温度Tw(RH,T)はStull近似式といわれる計算式を用いて温度(T)と湿度(RH)から算出しています。

    で、実際に計算すると
    28.5℃、52.4%時のWBGTは26.37℃となり表示の「暑さ指数」値29.29℃と一致しません。また、 29.5℃、72.3%時には28.30℃となり、こちらも表示値34.35℃と全く一致しません。

    いったいどういうことでしょう?

    もしかして翻訳の問題ではないか?

    そう考えて英語表記を確認すると、表示されていたのは

    Heat Index

    でした。

    つまり日本語版では「暑さ指数」と表示されていますが、実際にはWBGTではなく「熱指数」を示していたのです。

    ということで、「熱指数」で計算してみます。熱指数(Heat Index:HI)は気温(T)と湿度(RH)のみで以下の式で熱指数を定義しているステッドマン表を近似できます。

    HI=c1+c2・T+c3・RH+c4・T・RH+c5・T2+c6・RH2HI=c1 + c2・T + c3・RH + c4・T・RH + c5・T^{2} + c6・RH^{2}
            +c7・T2・RH+c8・T・RH2+C9・T2・RH2         + c7・T^{2}・ RH + c8・T ・RH^{2} + C9・ T^{2} ・RH^{2}
      c1=−8.784694756 c2=1.61139411 c3=2.338548839  c1 = -8.784694756 c2 = 1.61139411  c3 = 2.338548839
      c4=−0.14611605 c5=−0.012308094 c6=−0.016424828  c4 = -0.14611605  c5 = -0.012308094 c6 = -0.016424828
      c7=0.002211732 c8=0.00072546 c9=−0.000003582   c7 = 0.002211732 c8 = 0.00072546 c9 = -0.000003582  

    で、実際に計算すると
    28.5℃、52.4%時のHeat Indexは29.29℃となり表示値と一致します。
    29.5℃、72.3%時には34.35℃となり、こちらも表示値と一致します。

    ということで、このアプリでいう暑さ指数とはHeat Indexすなわち、熱指数を表していることが判りました。いわゆる熱中症の判断材料とするWBGTとは異なりますので、注意してください。


    使ってみて分かったデータロガーの面白さ

    今回、温湿度データロガーを使ってみて感じたのは、

    「測るだけで世界の見え方が変わる」

    ということです。

    何となく暑いと思っていた環境も、

    エアコンがどのように制御しているのか
    建物がどのように熱を蓄えているのか
    湿度がどのように変動しているのか

    をデータとして確認できます。

    さらに、普段は意識しないVPDや露点、Heat Indexといった指標の意味を理解するきっかけにもなりました。

    2千円で購入できる小さな機器ですが、その中には思いのほか多くの「科学のつまみ食い」が詰まっています。

    温度や湿度の変化に興味がある方なら、一度試してみる価値は十分にあるのではないでしょうか。

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