【科学のつまみ食い】  
熱伝導率が金属によって異なるのはなぜ?

 

by I-satto@04/03/13

2000年6月14日に 小学5年生の男の子からご質問を頂きました.。

金属の熱の伝導率について習いました。鉄、銅、アルミニュウム等でどうして伝導率が違うのでしょうか。 教えてください。


 まず、とは何かを考えてみましょう。

 具体的に、ご質問のような金属などの固体の場合を考えてみましょう。 正確には金属は固体の中でも、ちょっと特殊なのですが、そのことは、後で詳しく説明しますが、ここは、固体で考えてみましょう。
 固体は原子が
共有結合という力で互いに強く結びついています。たとえば、ビー球のような原子がそれぞれ互いにばねでつながっていると考えてください。このとき、原子(ビー球)の振動が熱に相当します。したがって、振動が大きいときは熱量が多い(温度が高い)と考えてください。「科学のつまみ食い」のホームページの「どうして水は100℃以上にならないの」が参考になるかもしれません。

 このように、固体の場合には互いに結びついた原子が振動している状態が熱で、その振動が大きいと温度が高く、小さいと低くなります。

 このようには実はエネルギーのひとつなのです。難しくいうと温度の高いところから温度の低いところにエネルギーが移動する(流れる)ときのエネルギーの移動形態(移動のしかた)の一つで、力学的な(力による)仕事や物質(もの)の移動などにはよらないものです。 上で述べた例のように振動が伝わることはエネルギーが伝わることに相当します。

 では、次にそのエネルギーの移動である熱伝導率について考えて見ましょう。

 具体的に、また金属の様な固体の場合はどのように熱が伝えられるのでしょう?
 いま、ひとつの
固体の板(棒でもいいです)を考えます。このとき、 固体は上に述べたように原子というビー球が互いにばねによって(共有結合)互いに結びついていると考えてください。さて、この固体が30度くらいの温度だったとします。そのとき、ビー球という原子は30度で互いに振動しています。

 この固体の端っこを火で暖めます。すると暖められたところは温度が高くなって振動が激しくなります。

 ビー球(原子)は互いにばね(共有結合)で互いにつながっているので、その振動は次々ととなりのビー球(原子)へ、またそのとなりのビー球(原子)へ、またまたそのとなりのとなりのビー球(原子)へとばね(共有結合)を通して伝わっていきます。この振動が伝わっていくことが熱伝導です。 そうして最終的には、全体が暖められ、全体が振動することになります。


では、もう少し考えて見ましょう。
ちょっと難しいかもしれません。

 冷たいものと暖かいものをくっつけた場合のように、二つの物体(ものの)間の熱の流れは、その二つの物体の温度差が大きいほど大きくなります。難しくいうと熱伝導によって伝えられる熱の流れは温度のこう配が大きいほど大きいのです。これをフーリエの法則といい、通常は熱の伝わり方は個の法則にしたがって、温度こう配に比例します。

 例えば、上の図のように厚さ d の一様な板の片方の面を温度 T1に,もう一方の面を温度T2(>T1 上の図の下の面の方がT2で上の面T1の温度より高い)に保ったとします。この時、板の中の温度こう配は(T2−T1)/d となります。これが、1秒間(単位時間)に板の面積1cm2(単位面積)を通してT2側からT1側に流れる熱量 I は,

 I=κ(T2−T1)/d

となります。この時の比例係数 κ を熱伝導率といいます。これは、もう少し大きくなったら習うと思います。この熱伝導率が、熱の伝わりやすさを表します。この κ が大きいほど熱が伝わりやすいのです。熱伝導率は御質問のように物質によって違いますが、同じ物質でも温度や密度によっても変化します。

では、もっと詳しく考えて見ましょう。

 物質は原子等の微視的粒子(小さな粒)でできています。この微視的粒子はその物質の温度に見合った乱雑な熱運動をしてて、それに伴うエネルギー(内部エネルギーといいます)は温度が高いほど大きく、乱雑な熱運動も激しくなります。 これは、最初にばねでつながれたビー球の例で簡単に説明しました。熱伝導というのは物体の中でこの乱雑な熱運動が広がる過程 とみなすことができます。その機構は物質の形態、例えば、気体であるとか、液体であるとか、固体であるとか、によって異なります。しかし、先ほども述べたように熱伝導は温度差による内部エネルギーの移動 とみなすことができるので、一般的には温度の異なる部分のもつ、それぞれの内部エネルギーの差が大きいものほど熱伝導率が大きいと考えることができます。いいかえると単位体積当りの熱容量,すなわち1Kだけ温度を上げるに要する熱量(比熱×比重)が大きい物質ほどだいたい熱伝導率が大きいといえます。これを易しく言うと、物質によって、ビー球の重さ(比重)がことなり、ビー球をつないでいるばねの強さ(物質同士の結びつきの強さ)が異なるために熱伝導率が変わってくるのです。
 

 今までl固体を例に考えてきましたが、一般的に考えて見ましょう。


[気体や液体における熱伝導]

 最初に気体や液体の熱伝導を考えて見ましょう。気体や液体では、気体や液体を作っている物質が、その気体や液体の中で移動しますね。これを対流といいますが、暖められるとこの対流が起こります。これを熱対流といいますが、このような、熱対流やかくはんによる流れなどがあると,高温の物質自身が移動して熱を運 びます。これは先ほど、固体で考えていた振動の異動とは異なりますね。しかし流れが起こらないという条件においては、やはり熱伝導(熱対流ではありません)によって熱が伝えられ ます。気体分子は、先ほどの固体のようにばねでつながれていませんが、気体分子は、熱運動といって振動ではなく、自由に動いています。この熱運動により、気体分子は互いに衝突しながら乱雑 に動き回っています。この動きは高温になるほど激しくなり、速度が速くなって、気体分子のもつ平均の運動エネルギーも大き くなります。温度に高いところと、低いところの差(温度こう配)があると高温の気体と低温の気体とが互いに 運動し、移動し、衝突することによって、入り混じっていきます。この拡散によってエネルギーの移動が起こります。すなわち熱伝導が起こる のです。さて、液体も気体と同じように分子が熱運動によって乱雑に動きまわります。ですから、熱伝導の仕組みは気体と同じで でうが、そのほかに、分子同士が引き合う力や反発しあう力(分子間力といいます)が気体よりも強く働くために、その影響も考えなければなりません。


[固体や金属における熱伝導]

 次に固体と金属の熱伝導を考えて見ましょう。金属は固体なのですが、他の個体と性質が違うために、熱伝導も金属だけ特別で大きくなっています。ですから、ここでは、金属と固体を分けて考えます。さて、多くの固体 (金属も含んで)では一番最初に説明したようにそれぞれのビー球がばねでつながれているように、その原子が規則正しく配列して います。先の気体や液体と違って、固体は動きまわることはありません。ところで、ガラス は原子が不規則で、規則正しくは並んでいませんが、原子の移動は起こらないと考えて良いでしょう。しかし固体でも金属は、その中の電子が自由に動 気回ることができるので、先に述べたように、電子が自由に動き回れないその他の固体とは性質が異なり、熱伝導の 仕組みが異なっています。
 さて、金属以外の固体(絶縁体)では主要な熱運動は、一番最初に述べたようにばねでつながれたビー球のような原子の振動で す。ここでは、ちょっと難しい言葉で説明します。上でも述べたように原子の間には力が働いていますので、振動は固体の中を 伝わっていく(伝播する)音波のような波(格子波といいます)になります。固体の中では、いろいろな振動数(波長)の格子波が乱雑に発生しています。難しくいうと格子波の量子 (フォノンの気体)が生じているといいます。高温になるほど波の強度である振幅(フォノンの密度)が大きくなるから,温度こう配があるとフォノンの密度の小さい低温のほうへフォノン気体が流れ,エネルギーが移動 します。高温の場所の大きな振幅が低温の場所に伝わり、小さな振幅を大きくしていきます。多くの絶縁体では温度が上がるほどフォノン間の衝突が激しくなり熱伝導率は減少 します。また結晶では不純物や欠陥が少ないほど熱伝導率が大きくなります。
 一方,金属の場合は原子の数と同じ程度の数の伝導電子があります。こので電子は,金属の中を運動し て電気を伝えます。この金属中の伝導電子は気体と同じようにみなすことができます。この電子 の気体がふつうの気体の場合と同じように熱を運ぶのです。金属でも先の絶縁体と同じフォノンによる熱伝導もありますが、普通は電子による熱伝導のほうがはるかに大きい ので、気体のような熱伝導の仕方になります。この場合,電子の動きが自由であるほど熱伝導率も大きくなるので、電気伝導率の大きい金属ほど熱伝導率も大き くなります。


 これで、熱、熱伝導がわかりましたね、

以下に主な金属の熱伝導率と電気伝導率を示します。参考にしてくださいね。

物質 熱伝導率 W/m・K
-100℃ 0℃ 100℃ 300℃ 700℃
亜鉛 117 117 112 104 66
アルミニウ 241 236 240 233 92
アンチモン 33 25.5 22 19 27
イリジウム 156 147 145 139 -
インジウム 92 84 76 42 -
カドミウム 100 97 95 89 45
カリウム 105 104 53 45 32
324 319 313 299 272
432 428 422 407 377
コンスタンタン==*6 19 22 24 27 -
水銀 29.5 7.8 9.4 11.7 -
スズ 76 68 63 32 40
タリウム 51 47 44 - -
タングステ 188 177 163 139 119
タンタル 58 57 58 58.5 60
99 83.5 72 56 34
420 403 395 381 354
ナトリウム 141 142 88 78 60
37 36 34 32 21
ニッケル 113 94 83 67 71
白金 73 72 72 73 78
パラジウム 72 72 73 79 93
ビスマス 11 8.2 7.2 13 17
ベリリウム 367 218 168 129 93
マグネシウ 160 157 154 150 -
マンガン 7 8 - - -
モリブデン 145 139 135 127 113


この表の参考文献  :  
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