【科学のつまみ食い】  
光合成ではどうやって二酸化炭素を酸素に変えているのですか?

 

by I-satto@02/10/03

2000年4月03日に中学2年生の女の子からご質問を頂きました.。

植物の光合成で葉緑体は酸素を作りますよねー。いったいどうやったら二酸化炭素を酸素にかえることができるのですか?
こんな変なこと質問する人っています?

この前はありがとうございました。たくさんいろいろと教えてくださりまして・・・・
かんしゃ!!! では。へんじまっております


またまた、質問ありがとうございます。「なぜだろう?」と考えることは必要なことです。また、いろいろ調べても判らないことはたくさんありますね。

 さて、植物の光合成ですが、理科で光合成について習ったとおもいます。通常、植物の光合成は光のエネルギーを用いて行う炭素(C)の固定のことを指します。ですから、「二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)を作る」といういう言い方は正確ではなく、「二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物(Cn(H2O)m)と酸素(O2)をつくる」というのが正確です。そして、その目的は酸素(O2)を放出することではなく、炭水化物Cn(H2O)m)を作ることなのです。
 ところで、炭水化物というのは糖類やその糖類から構成される物質の総称で、多くの糖類のその化学式が、(Cn(H2O)mで表されるように炭素(C)n個と水(H2O)m個の化合物であらわされるために炭水化物と呼ばれます。生物にとって、炭水化物はエネルギー源や生物の体を構成するために不可欠な物質です。
 生物において炭水化物を作ることができるのは植物の光合成が大部分(一部の細菌も光合成を行います)で、動物は食物として炭水化物を取り入れています。従って、植物の光合成の営みが無ければ、ほとんどすべての生物は生きていけないのです。それほど植物の光合成というのは生命にとって重要なものなのですね。

 ところで、上に述べたように光合成は、「二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物(Cnn(H2O)m)と酸素(O2)をつくる」のですが、これを化学式で書くと

nCO2+mH2O+hν->Cn(H2O)m+nO2

という反応になります。ここで、hνは光のエネルギーをあらわしています。例えば、最も簡単な炭水化物であるブドウ糖(C6H12O6=C6(H2O)6)6個の炭素(C)6個の水(H2O)からでき、酸素(O2)を6個放出します。化学式で書くと、

6CO2+6H2O+hν->C6(H2O)6+6O2

となります。
しかし、これは最初「nCO2+mH2O+hν」と最後「Cn(H2O)m+nO2」を書いただけで、途中の非常に複雑な過程を省略してあります。上の式にかかれているように単純に二酸化炭素と水を置いて、光を当てれば炭水化物と酸素が合成されるということではなく、複雑な反応をします。
 では「どうやったら光合成ができるか」というのは非常に難しい質問です。仕組みは大体わかっていますが、どうしたら人間の手でできるかというのは難しいのです。現在、光合成を人間の力で行おうとする人工光合成の研究は進んでいますが、未だ植物の域まで達していないようです。
植物はどうしているかというと 植物の葉緑体に含まれている葉緑素に光が当たると、葉緑素は光の力をうまく利用して、空気中に存在する二酸化炭素と、根からすい上げた水を光合成を行い、炭水化物を生成し、同時に酸素を放出しています。

ところで、この仕組みは非常に難しいので読み飛ばしてもかまいません。高校生や大学生になって興味があれば詳しく調べてみると良いと思います。下の図を参考にしながら読んでください。

 葉に含まれている葉緑素光エネルギーを吸収し、電子の流れを作ります。そして、葉の中にあるADP(アデノシン二リン酸)リン酸(P)からATP(アデノシン三リン酸)を合成し(循環的光リン酸化)NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレチオドリン酸)を還元(水素Hを付加する)して助酵素NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレチオドリン酸)を作ります(水の光分解)。この時、分解される水(H2O)は根から吸い上げ、水素(H)を使って、空気中に酸素(O2)を放出します。これを、明反応といいます。
 次に、空気中から吸収された二酸化炭素(CO2)カルボキシジムスターゼという酵素の働きによって、五炭糖リン酸(リブロース-1.5-二リン酸)に固定(取り込まれ)され、これが2つの分子のリングリセリン酸(ホスホグリセリン酸)に分解します。その後、上の明反応で合成されたATPからリン酸を受け取り、とNADPHから水素を受け取って三炭糖-3-リン酸ができます。2つの三炭糖-3-リン酸リン酸を離して六炭糖(C6(H2O)6=ブドウ糖)となり、更に反応が進んでデンプンが合成されていきます。この時、一部は再び五炭糖リン酸に戻り、最初の二酸化炭素の固定の役目をします。この反応は回路状で光を用いないので、暗反応と呼ばれます。
 ここでは、簡単に光合成には「光と水を使ってATPやNADPHを合成し、酸素を放出する明反応」と、「光を使うこと無しに、明反応で合成されたATPやNADPHと二酸化炭素を使って、ブドウ糖を合成する暗反応」があることを覚えて置いてください。


さて、難しい話は置いておいて、光合成の速度について書きます。
【光の色】
 光の波長(色)と光合成の関係も判っていて、赤、青の光を吸収し、緑色の光の吸収は少ないのです。これは、科学のつまみ食いのホームページの「色によって洗濯物の乾き方が違いますか?」で述べているように人間の目に見える色は反射した色なので、緑色の葉緑素は緑色を反射して、その他の色を吸収しています。実際、光の波長を変えて光合成の速度を測定する実験では、緑色の波長のところでは光合成の速度が遅くなっていることがわかっています。
【光の強さ】
 光の強さを強くすると光合成の速度は速くなりますが、ある程度の光の強さになると、それ以上光合成の速度は速くなりません。
【二酸化炭素の量】
 光の強さを一定にした時には二酸化炭素の量が多いほど光合成は速く進みますが、ある程度二酸化炭素が濃くなると、それ以上光合成の速度が速くならないこともわかっています。
【温度】
 光合成の速度は、温度に依存し、最適な温度があります。30℃程度の暖かい時の最も光合成が盛んになります。

 さて、最後に、植物は光合成で酸素を放出しますが、実は人間などの動物と同じように呼吸(酸素を吸って二酸化炭素を吐く)もしています。日中の明るく暖かい時には光合成による酸素の放出量と二酸化炭素の吸収量が、呼吸による酸素の吸収量と二酸化炭素の放出量よりも勝っているので、酸素の放出が多く、二酸化炭素の吸収が少なくなります。光のない夜はその逆で、人間などの動物と同じように酸素の吸収量が多く、二酸化炭素の放出量が多くなります。

 このように植物は炭水化物の合成や酸素の放出など、生物が生きていく上で必要なものを生産するという重要な働きをしています。私たちも、もっと植物を大切にしなければなりませんね。


 

 

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