【科学のつまみ食い】  
体内で作られる酵素に寿命はありますか?

 

by I-satto@02/10/03

2000年4月18日に高校2年生の学生の方からご質問を頂きました.

授業で酵素の勉強をしました。酵素はそれ自身は変化せず、他の物質が化学反応をするのを促進する働きがあると、先生は言ってました。ということは、体内で作られる酵素は、どんどん増えていくのでしょうか。それとも、寿命というものがあるのでしょうか? おしえてください。


 酵素は先生がおっしゃたっとおり、それ自身は変化しません。では、自分自身は変化しないのにどうして他の物質を変化させることができるのかというと、酵素は化学反応において、その酵素が関係する反応の速度を加速し、黙っていてはなかなか反応しない過程をすみやかに反応させ、その反応が平衡状態になるように働きます。

 反応の模式を簡単に書くと

  AB ⇔ A+B
  ↑
  酵素

といえるでしょう。具体的には、酵素はABに結合します。するとABの形が変化し、ポテンシャル(結合エネルギー)を下げます。この形が変わることにより、反応しやすい原子配置になるのです。この結合がピッタリ行われる必要があるので、酵素反応は物質によって使用される酵素が異なります。ところで、触媒というのは習いましたか? 触媒もそれ自身は変化をすることなしに、他の物質の化学反応のなかだちをして、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質のことですね。そうです。酵素というのは生体内で働く触媒なのです。

 そうすると、酵素に寿命があるかどうかということはおのずから判るでしょう。例えば、アンモニアを合成する時には鉄化合物やが使われますが、これと同じように酵素も化合物です。そういう意味では、酵素は生物活動をしているわけではないので、生物学的な寿命はありません。

 ところが、化合物は何時までも安定かというとそうではありませんよね。化合物は温度、湿度、酸、アルカリ、周りにある化学物質、光、放射線等の周囲の環境によって、分解したり、合成されたりします。そういう意味で酵素も永久にその形をとどめているわけではなく。酵素として働く以外の化学反応などによって、分解、結合が行われます。

 また、生体内においては、排泄されたりもします。

 従って、体内で作られる(合成される)酵素が無限に増えつづけるということはありません.また、正常な生命活動を営んでいる場合には、酵素の生産はコントロールされて、体内ではある一定量だけが生産されるようになっています.

 ここで、酵素がいかに反応速度を速くしているかという例をあげましょう。人間の体の中で酵素といってすぐ思い浮かぶのは胃液に含まれるペプシンなどではないでしょうか?この胃液には、ペプシントリプシン等の消化酵素塩酸が主な主成分で、主に蛋白質をアミノ酸に分解しています。例えば、蛋白質を分解するのに濃い塩酸を用いた場合には110度で約24時間以上かかりますが、人の胃の中にはPH値が2の酸性で、37度の温度で6〜8時間で溶かされてしまいます。このように酵素は生命活動を維持する上で非常に重要な働きをもっていることがわかります。

 ところで、酵素は生命活動維持だけではなく、現代社会においては数多くの利用がなされています。例えば、醤油、味噌、酒などの醸造の場合、昔は酵母菌等の微生物による発酵技術が用いられてきました。しかし、現在では、これらの微生物から酵素を分離精製して、酵素を用いた醸造などが行われるようになってきています。この食品生産への応用の他、繊維生産洗剤環境浄化等、我々の身の回りに役立つところで数多くの応用がなされています。

 このように、色々な応用技術が開発されている酵素は現在、約2400種あり、大きく分けて以下の6つに分類されます.最後にこれらを簡単に紹介しておきます。
1 酸化還元酵素(Oxidoreductase)
 生体内での酸化還元反応に用いられる酵素で、生体を構成する各種の物質の合成や生活に必要なエネルギーを発生するための役割を果たしています。オキシダーゼ、デヒドロゲナーゼなどがあります。
2 転移酵素 (Transferase)
 ひとつの化合物からアミノ基、メチル基、燐酸基等を他の化合物に転移させる反応に用いられる酵素で、アミノ基転移酵素、燐酸基転移酵素などがあります。
3 加水分解酵素 (Hydrolase)
 生体内の加水分解反応に用いられる酵素で、エステラーゼ、グリコシダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼなどがあります。
4 脱離酵素 (Lyase)
 生体内においてある化合物から特定の原子あるいは分子を分離する酵素。
5 異性化酵素 (Isomerase)
 糖やアミノ酸などの有機化合物の異性体どうしを転換させる反応に用いられる酵素です。
6 合成酵素 (Ligase/Synthetase)
 生体内において、2種類の化合物から特定の化合物を合成する酵素




 

 

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