【科学のつまみ食い】

蟻がチョークの線を通らない理由?

by I-satto@06/04/13

1999年7月30日に中学一年生の女子からの質問を頂きました。

 蟻はチョークの線のところを通らなかった。チョークで書いた円の中に砂糖を置いてみたけど、チョークを警戒しているのかやっぱり通らなかった。なぜ蟻はチョークを嫌うのですか?なぜ通らないのですか?教えて下さい。至急回答をください。 
.


 この質問は1999年7月30日に頂いたのですが、質問頂いた時のE-mailアドレスが間違っていたようで、お返事を出しても戻ってきてしまいました。何度か試みたのですが、残念ながら、お返事が届きません。そこで、こちらでそのまま回答を載せます。また、質問された方がお気づきになられたならば、ご一報くだされば幸いです。E-mail:

この質問に関して、先日(9/28)メールを頂きました.文末に紹介致します. 引き続き11/811/11に2通のメールを頂きましたので更に紹介致します。私の回答と最初に寄せられたメールの回答は化学的に考えていますが、2通目、3通目のメールは生物の行動に関して考えられた回答です。色々考え方があって面白いと思います。

    チョークの関係はどうしてやってみようと思ったのでしょう? こういうところに気がついて、色々な事を試してみるのは、良い事だと思いますし、なぜだろうが大切ですね.
 さて、蟻がチョークの線を避けているという事ですが、まず第1に、色について考えてみましょう。チョークは白でしたか?赤でしたか? 他のチョークでも試してみましょう。結果は、多分どのチョークでも同じだと思います。蟻は殆ど目が見えません。なぜなら、蟻は真っ暗な土の中で生活しています。従って、暗闇でも生活できるように、眼以外の器官が発達しています。モグラと同じように目が見えなくても生活できるようになっています。では、目の変わりに何処が発達したのでしょう? 実はにおいです。匂いで食べ物を見つけます.蟻は触覚で匂いをかぎますので、目がよく見えなくても食べ物の場所がよくわかるのです。
 では、どうしてチョークが嫌いなのでしょう? ここは、私も調べてみましたが、良く判りませんでした。ごめんなさい。今後も、時間の有る時に気にかけて、調べてみようと思います。また、もしご存知の方がいらっしゃれば私当てにを下さい。
 さて、幾つか調べた結果を下に書いておきますね.
まず、チョークは何でできているかというと、炭酸カルシウム(CaCo3)または硫酸カルシウム(CaSO4)のどちらかで、純度は98%程度です。さて、これらの毒性ですが、蟻への毒性はわかりませんでしたので、人への毒性を調べてみました。
 硫酸カルシウムは生石膏あるい焼石膏と言われるもので、いわゆる石膏の類です.歯医者で使用したり、美術で使ったり、食品添加物に使われたりすることがあります。このように硫酸カルシウムは殆ど人にたいして無害で毒性はありません。だからと言って、チョークを食べたり、食べさせたりしては行けません。
 炭酸カルシウムのほうは、害があります致死量15g/1kgと言われていて、体重40kgの人なら600g、約120本のチョークを食べなければなりません。ところで、これを蟻に、換算すると、蟻の体重を100mgとすれば、1.5μgです。これはものすごく少ない量です。こさじすりきり一杯の量が1gくらいだと考えれば、その1/1000くらいで死んでしまいそうです。こう考えると、人間には害が少なくなくても蟻には害がありそうです.
 また、チョークは、炭酸カルシウムや硫酸カルシウム以外にいくつかの不純物が含まれている可能性があります。例えば、炭酸カルシウムなどはその製造過程で、生石灰(酸化カルシウム CaO)消石灰(水酸化カルシウム Ca(OH)2)等が微量ですが混入するかもしれません。これら生石灰や消石灰はアルカリ性で皮膚に炎症を起こしたりしますから、蟻などにとっても毒性はかなり強いと思います.ちなみに、炭酸カルシウムや硫酸カルシウム自体は中性です。
 さて、なぜ、蟻がチョークを嫌いかは明確に答えられませんでしたが、もし詳しく実験してみるなら、色々なもので線を引いてチョークと同じように嫌うものがあるかどうかを調べてみたり、チョークの成分を調べて、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、生石灰、消石灰などで同じように線を引いてどれを嫌うかを調べてみるのも面白いと思います。もし、これらの薬品を使うのならば、学校の先生に相談してみましょう。(1999/08/30)


蟻がチョークを嫌うわけについて以下のようなメールを1999年9月28日に大学の助教授の先生から頂きました。参考にして調べたりしてみると良いと思います.

楽しいホームページ、有難うございます。大学生用の実験テーマはないかと探しているうちにそちらにたどりつきました。大学生といえども、自分の手を動かして自然界の不思議に触れたことのある人はほとんどいません。本学では、例えば「身の回りの光るものを探せ(暗闇で砂糖をすりつぶすと光が出るらしい)」「ステンレス包丁を錆びさせる方法を考えよ」「モル凝固点降下を利用して、誰が一番冷たい寒剤を作れるか」「誰が一番大きなミョウバンの結晶を作れるか」などのテーマを与える講義をやったりしています。教官も楽しめる時間です。

さて、蟻がチョークを嫌うわけについて、私はそちらの専門家ではありませんが、「蟻酸」という物質と何か関係があるのではないでしょうか?チョークなら蟻酸を中和することでしょう。チョーク以外にも、アルカリ性のものなら、蟻は嫌うでしょうか・・・。

自分で直接調べるまでの根気がありませんので、書きっぱなしのメールですみませんが、楽しいホームページのお礼方々メールさせていただきました。

ということです。メールありがとうございました。

さて、蟻は蟻酸を出すのでそれを中和してしまうアルカリ性のものを嫌うかもしれないと言うことですね。もし確かめてみるなら、家の中にあるアルカリ性のもので試してみることができるでしょう。アルカリ性の代表的なものと言えば、トイレ用洗剤があります。トイレ用洗剤には酸性のものもあるので要注意です。また、洗濯洗剤は中性から弱アルカリ性です。また、最近は少なくなりましたが、虫刺されの時に添付するアンモニアもアルカリ性です。ところで、ひょっとすると中和と言うことだけでなく酸も嫌うかもしれません。比較実験として、酸を使った実験もしてみると良いでしょう。酸は、先ほどの洗剤のほか、食品ではとかレモン汁とかもあります.実験をする場合は比較実験をして、多くのデータを集めることが重要です。アルカリ性のものでも酸のものでも一種類ではなく多くの種類で試してみて、その結果をまとめることが重要です。2000年の夏休みの自由研究でやってみると良いかもしれませんね。

ところで、蟻酸とはどういうものでしょう?蟻酸と言うのは脂肪族モノカルボン酸といわれカルボン酸の中では最も簡単な構造で、その化学式はHCOOHです。刺激のある強い臭いのある無色透明で文字通り酸性の液体です。メチルアルコールやホルマリンを酸化することにより作ることができます。ハチやアリの毒の成分の一つで刺されたときに痛くなったり、はれたりする原因になっています。基本構造が上に述べたように簡単なので色々な有機薬品を合成するときの原料や、皮のなめし等にも用いられます。


蟻がチョークを嫌うわけについて、更に以下のようなメールを1999年11月8日に科学のつまみ食いのメールマガジンの読者から頂きました。参考にして実験してみると良いと思います.

蟻がチョークを嫌う理由
チョークの主成分は、私の使っているものでは、炭酸カルシウムが主成分です嫌う理由をいろいろに推察して、それを検証するのがおもしろいですね。

ただ、この項に限って言うと、発想が化学的なものに偏っているので、視覚的なもの(白い)、触覚的(物理的)なものであるとか、の可能性も有りそうです。(私見ですが、白いからではないかと・・・)

蟻の方は、ホームページの答えの最初のほうに言及していますが、色々な色のチョークで試すのは良いと恩といます.しかし、蟻は明るさは判るようですが、ほとんど目が見えないらしいので、私自身は色ではないと思っています.蟻の観察セットなどには白い砂が入っているものもありますしね。
確かに、化学的なものに偏ってしまってますね。私自身は臭いではないかと考えています。もちろん、人間の嫌いな臭いは体に悪いものですから、蟻にとっても体に悪いもののにおいを本能的に判るのではないかと思っています。物理的形状と言うのも面白いですね。粉末の大きさで比べていくという方法もありますね.


更に、蟻がチョークを嫌うわけについて、以下のようなメールを1999年11月11日に設計技術者の方から頂きました。参考にして実験してみると良いと思います.

偶然、貴「科学のつまみ食い」Homepageを見つけ、 まだ部分的ではございますが、楽しく拝見させていただきました。

小生、設計に関わる技術者ですが、 仕事とはあまり縁のない 「蟻がチョークの線を通らないのはなぜですか?」 について、少しだけ報告させていただきます。

ご存じのように、蟻の行動は嗅覚よるところが大きいようですが、 行進する蟻は、自分のお尻から匂いを出すことも、しているようです。 つまり、前の蟻が出した匂いを線路にして後続の蟻が列を作り、 さらに後続のために匂いを出しているのです。

蟻の列の途中で、地面に指でサッと横一本線を引いてやる(つまり、部分的に 匂いを消す)と、後続の蟻は、途端に先へ行けなくなり、うろうろし始めます。 しかしやがて、後続の蟻は見えない指の跡を乗り越え、なんとか先行の匂いを 辿り当て、列を復活させます。 チョークでの実験をしたことはありませんが、 ずっとチョークの跡を乗り越えられずにいるのでしょうか? なんだか、いずれは乗り越えてしまいそうな気がします。 ただ、先行の付けた匂いとチョークの匂いとの兼ね合いで、 後続が来るかどうかは疑問ですが………

それともやはり、Homepageにあるように、何らかの化学物質が原因なのでしょうか?

私には何となく、前者の要因が強いような気がします。 如何でしょうか?

メールありがとうございます.
    蟻とチョークの関係は、身近な話題であることからでしょうか、その他の方からもメールを頂いていいます。この質問主からのメールから、単に単独あるいは複数の蟻をチョークで囲うなどすると、そこから出られない、あるいは、チョークを避けて出口を探すと解釈していました。おっしゃるように、列をなしている場合にはその臭いをたどれなくなると言うことはありそうです。その場合にはチョークだけではなく、多くの臭いを発するものでも、同様のことが見られそうですね.多くのかたがたがこの話題に関心を持っていて私も楽しい限りです.(^^)

科学のつまみ食い