最初の大動脈瘤の手術


00055-01 3月25日に父が受けた緊急手術は破裂した弓部大動脈を人工血管に交換する手術でした。そもそも大動脈瘤とはどういうものでしょう。
 大動脈は、全身に血液を送る大血管で、左の図のように心臓の左心室を出て上行する上行大動脈を通った後、弓状に曲がった弓部大動脈を通過します。この弓部大動脈から脳や両手へ動脈が分岐し、脊髄に沿って下行する下行大動脈を通り、心臓の裏から横隔膜までの胸腹部大動脈を通り、お腹の裏の腹部大動脈に達します。この腹部大動脈では、腎臓や肝臓、腸その他内蔵に動脈が分岐し、最後に両足に分岐する超骨大動脈に達します。このうち、脊髄に血液を送っている肋間動脈は横隔膜の辺りにあります。
 さて、父が解離性大動脈瘤破裂を起こし、緊急手術をした手術名は弓部全置換術といい、図の緑色のところを人工血管に交換しました。なお、破裂した箇所は図の青塗りのところで、弓部大動脈にあります。
 手術の方法は、脳保護法と言われています。
●全身麻酔
●心臓を停止。
 心臓から出て脳に至るまでの動脈を人工血管に交換するため、血流を止めます。
●人工心肺により脳にのみ新鮮な血液を送る。
 心停止による脳の壊死を防ぐため。
●超低体温(18℃)に保つ。
 心停止による各種臓器の壊死を防ぐため
●人工血管置換手術
 この状態で、図の緑色の弓部大動脈を人工血管に交換します。心停止と超低体温のために出血は少なくなります。交換した人工血管は網目状の化学繊維製で、動物のたんぱく質でコーティングされ漏れは無く、数十年の耐久性があるといわれています。
●こののち、心臓を回復させます。

以上のようにして父は手術をしました。

00055-02 切開場所は右の写真のように胸の真ん中を切り開きました。この写真は実際の父の手術痕で、切開長さは30cmくらいです。写真の鎖骨の辺りにある10cmの切開痕は人工心肺によって、脳に血液を送るために設けた切開痕です。脳を回った血液は静脈を通じて心臓に戻るので心臓から人工心肺へ戻してやります。腹部に残っている4つの痕はドレン痕で、体内に溜まった体液を排出する目的で管が入れられています。父のような解離性大動脈破裂による場合は死亡の危険性は50%程度といわれています。通常の待機手術では危険性は5%程度であり、助命率は比較的高い手術です。
手術によるリスクを下に書いておきます。
●心不全
 手術中は心臓に大きな負担がかかります。心停止してしまうのですから。そのため、、心筋梗塞や重篤な不整脈、心不全などを起こす可能性があります。
●脳梗塞(脳障害)
 ほとんどの場合、動脈硬化が原因なので、血管の内側にある動脈硬化物が脳のほうに回って脳梗塞を起こす場合があります。
●肺機能障害、肺炎
 肺の酸素を取り込む働きが障害されることや痰がたまることによる肺炎を起こす場合があります。
●内臓の血流障害
 腎臓、肝臓や腸管などの内臓は術後の心機能が低下している時期に障害を受ける場合があります。
●感染症
 これは術後ですが、免疫力の低下のために、点滴チューブや導尿チューブ、切開場所などから細菌感染を起こすことがあります。

( 2005年07月12日[火] )

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